2019年02月19日

行政事件訴訟法第三条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律四五条一項に基づく措置要求を不問に付する旨の公正取引委員会の決定と抗告訴訟

 所論は、要するに、上告人が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
(以下、独占禁止法という。)違反の行為による被害者として、権利の行使として
行なつた同法四五条一項に基づく申告に対し、被上告人には応答義務ないし適当な
措置をとるべき義務はないとし、これを前提として本訴を不適法とした原判決には、
法令の解釈を誤つた違法、判断遺脱、理由齟齬の違法があるというのである。
 しかし、独占禁止法四五条一項は、「何人も……事実を報告し、適当な措置をと
るべきことを求めることができる。」と規定しており、その文言、および、同法の
目的が、一般消費者の利益を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を促進するこ
とにあり(一条)、報告者が当然には審判手続に関与しうる地位を認められていな
いこと(五九条参照)から考えれば、同法四五条一項は、被上告人公正取引委員会
の審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるにとどまり、報告者に対
して、公正取引委員会に適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与した
ものであるとは解されない。また、独占禁止法の定める審判制度は、もともと公益
保護の立場から同法違反の状態を是正することを主眼とするものであつて、違反行
為による被害者の個人的利益の救済をはかることを目的とするものではなく、同法
二五条が特殊の損害賠償責任を定め、同法二六条において右損害賠償の請求権は所
定の審決が確定した後でなければ裁判上これを主張することができないと規定して
いるのは、これによつて個々の被害者の受けた損害の填補を容易ならしめることに
より、審判において命ぜられる排除措置と相俟つて同法違反の行為に対する抑止的
効果を挙げようとする目的に出た附随的制度に過ぎず、違法行為によつて自己の法
的権利を害された者がその救済を求める手段としては、その行為が民法上の不法行
為に該当するかぎり、審決の有無にかかわらず、別に損害賠償の請求をすることが
できるのであるから、独占禁止法二五条にいう被害者に該当するからといつて、審
決を求める特段の権利・利益を保障されたものと解することはできない。これを要
するに、被上告人は、独占禁止法四五条一項に基づく報告、措置要求に対して応答
義務を負うものではなく、また、これを不問に付したからといつて、被害者の具体
的権利・利益を侵害するものとはいえないのである。したがつて、上告人がした報
告、措置要求についての不問に付する決定は取消訴訟の対象となる行政処分に該当
せず、その不存在確認を求める訴えを不適法とした原審の判断は、正当である。ま
た、独占禁止法四五条一項に基づく報告、措置要求は法令に基づく申請権の行使で
あるとはいいえないのであるから、本件異議申立てに対する不作為の違法確認の訴
えを不適法とした原審の判断も、結局正当である。
 なお、所論は、告訴権の行使を妨げられたというけれども、告訴権の有無は、本
訴の適否とは関係がない。さらに、所論は違憲をいうけれども、その実質は単なる
法令違反の主張にすぎず、原判決にその違法のないことは、既に述べたところから
明らかである。
(最判昭和47年11月16日 民集 第26巻9号1573頁)

概略

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律四五条一項に基づく措置要求を不問に付する旨の公正取引委員会の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない。


※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。


昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)
第四十五条 何人も、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
○2 前項に規定する報告があつたときは、公正取引委員会は、事件について必要な調査をしなければならない。
○3 第一項の規定による報告が、公正取引委員会規則で定めるところにより、書面で具体的な事実を摘示してされた場合において、当該報告に係る事件について、適当な措置をとり、又は措置をとらないこととしたときは、公正取引委員会は、速やかに、その旨を当該報告をした者に通知しなければならない。
○4 公正取引委員会は、この法律の規定に違反する事実又は独占的状態に該当する事実があると思料するときは、職権をもつて適当な措置をとることができる。
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行政事件訴訟法第三条 地方公務員法第四六条に基く措置要求の申立に対する人事委員会の判定は行政処分にあたるか。


 地方公務員法四六条が実体法上具体的な措置の請求権を認める趣旨のものでない
ことは所論のとおりである。しかし、同条は、地方公務員法が職員に対し労働組合
法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為をなすことを
禁止し、労働委員会に対する救済申立の途をとざしたことに対応し、職員の勤務条
件の適正を確保するために、職員の勤務条件につき人事委員会または公平委員会の
適法な判定を要求し得べきことを職員の権利乃至法的利益として保障する趣旨のも
のと解すべきことは、原判示のとおりである。従つて、同条に基く申立を違法に却
下した場合が右権利の侵害となることはもとより、右申立に対し実体的審査をし棄
却の裁決を与えた場合においても、審査の手続が違法である場合には、適法な手続
により判定を受くべきことを要求し得る権利を侵害することとなることは明らかで
ある。さらに、また、審査の手続が適法である場合でも、委員会が採るべき措置の
いかんについては―この点について委員会に広い裁量権が認められ、場合によつて
は申立を棄却することも裁量の範囲内の措置として適法になし得るとはいえ―裁量
権の限界があり、この限界を越えて違法に申立を棄却することは、裁量権の限界内
の適法な措置を要求する権利を害した意味で、なお、違法に職員の権利乃至法的利
益を害することとなるものと解すべきである。以上を要するに、地方公務員法四六
条は、職員の措置要求に対し、適法な手続で、かつ、内容的にも、裁量権の範囲内
における適法な判定を与うべきことを職員の権利乃至法的利益として保障する趣旨
の規定と解すべきものであり、違法な手続でなされた棄却決定また裁量権の限界を
越えてなされた棄却の決定は、同条により認められた職員の権利を否定するものと
して、職員の具体的権利に影響を及ぼすわけであるから、右棄却決定が取消訴訟の
対象とする行政処分に当るものと解すべきことは、原判示のとおりである。
 もつとも、委員会の判定の内容は、多くの場合、勧告的意見の表明であつて、そ
れ自体で、直接職員の勤務条件に影響を及ぼすものでなく、それ自体としては一種
の行政監督的作用を促す効果をもつに過ぎないことも所論のとおりであるが、勧告
的意見にせよ、人事行政の専管機関である委員会が、法律の規定に基き正規の手続
で意見を表明した場合には、この意見の表明がなに場合に比して職員が法的にもい
つそう有利な地位に置かれることは否定し得ないところであつて、かかる効果を伴
う意見の発表を要求し得る法的地位を識員に認めた以上、この意見の発表を要求し
得べき職員の権能は、一種の個人的権利乃至法的利益と解するに妨げがなく、右意
見の発表を違法に拒否する委員会の決定は、右の個人的権利乃至法的利益を害する
意味において、違法な行政処分と解さざるを得ない。同法四六条は、一面において、
個々の職員に職員全体の代表者とし職員全体のために委員会に行政監督的意見の発
表を要求し得ベき地位を認めたものとも解されるが、同時に、勤務条件につき不利
益を受けた職員個人のためにも、意見の発表を要求し得べき地位を認めたものと解
すべきことは前述のとおりであるから、同条に基く申立の権能が一面において公的
性質を保有するということだけで、ただちに、申立を違法に却下または棄却する委
員会の決定が個人の権利義務に関せず、従つて行政処分に当らないということはで
きない。
 また、職員の勤務条件につき同法四六条に基く申立とは別個に司法的救済を求め
る途があるということは、右申立を違法に却下または棄却する決定が抗告訴訟の対
象となる行政処分に当ると解することの妨げとなるものではない。


(最判昭和36年3月28日 民集 第15巻3号595頁)


概略

 地方公務員法第四六条に基く措置要求の申立に対する人事委員会の判定は、取消訴訟の対象となる行政処分にあたる。





※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

地方公務員法
(勤務条件に関する措置の要求)
第四十六条 職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。
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2019年02月18日

民法57 判例六法 丸暗記ドリル【メルマガ版】

★今日の問題★
次の記述の正誤を答えよ。

甲土地は、ABが共同相続した土地であるが、遺産分割が済んでいないのに、Bが勝手に単独で相続した旨の所有権取得の登記をし、さらに第三取得者Cに対して転売し、登記も経由してしまった。この場合、Aは、登記なくして、Cに対して、自己の持分を主張できる。

10秒で考えよう。よーいドン!

1秒

2秒

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5秒

6秒

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9秒

10秒

★今日の解説★

正しい。
 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中のBならびにBから単独所有権移転の登記をうけた第三取得者Cに対し、他の共同相続人Aは自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。(最判昭和38年2月22日)
 なぜなら、Bの登記はAの持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果、CもAの持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである。

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行政事件訴訟法第三条 東京都外形標準課税条例無効確認等請求控訴事件

(1) 本件条例の無効確認請求(請求1及び2)の法律上の争訟性等について
 当裁判所も,本件条例の無効確認請求(請求1及び2)は,法律上の争訟性を欠 き,また,本件条例の制定・公布が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有すると解 することはできないから,同請求に係る訴えは不適法であると判断するものである が,その理由は,引用の末尾に次のとおり付加するほか,原判決13頁13行目冒 頭から同17頁11行目末尾までの「(1) 請求1及び2について」欄記載のと おりであるから,これを引用する。
「オ 本件条例の制定や施行自体に法律上の争訟性や抗告訴訟の対象となる行政処 分性が認められるためには,本件条例の制定なり施行によって一審原告らの「具体 的な」権利義務や法的地位に対し,「直接的な」影響を及ぼすことが必要であると 解されるものであるが(高裁判所平成4年11月26日第一小法廷判決民集46 巻8号2658頁),そもそも,地方公共団体における条例の制定なり施行は,一 般的な規範を定立することを目的とするものであって,条文の文言上その適用対象 として規定されている個人や法人の「具体的な」権利義務や法的地位に「直接的 な」影響を及ぼすような内容を持つものではない。例外的に,そうした内容を持っ た条例があり得ることは否定できないが,甲1号証により認められる本件条例の条 文の文言や内容を精査してみても,本件条例は,各事業年度の終了の日における資 金の量が5兆円以上である銀行業等を行う法人を課税の対象として規定するにとど まるのであるから,本件条例の制定・施行が直ちに一審原告らの「具体的な」権利 義務や法的地位に「直接的な」影響を及ぼすものであるとは認められない。確か に,証拠(乙3の3ないし17・20・21,乙4の1ないし5,乙5の1ないし 8)によれば,本件条例の制定過程においては,一審被告東京都の主税局長ら関与 した職員,一審被告東京都知事,本件条例案の審議に参加した東京都議会議員ら が,一審原告らも含めた大手の銀行30行に適用されることになることを予測し, その前提で,本件条例案の準備,審議における説明・答弁・質疑等が行われたこと が認められるが,そこで問題となっている本件条例の「適用」というのは,あくま でもこれが制定・施行された場合の適用可能性のことであって,上記本件条例の文 言等に照らして,法律的に当然に適用されることを前提とする趣旨のものと見るこ とはできない。また,一審原告らは,本件条例の制定・施行によって,繰延税金資 産及び当期利益の減少という直接的な影響を受けたと主張するが,この点について も,実際上の関連性は認められるとしても,法的な意味では,本件条例の制定・施行後,一審原告らに本件条例に基づく具体的な租税権利義務関係が生じて初めて関 連性が問題となる点に変わりはなく,本件条例の制定自体が一審原告らに対し,上 記の意味で「直接的に」及ぼした「具体的な」権利義務への影響であると評価する ことはできない。」

(東京高等裁判所平成15年1月30日)

概略
東京都外形標準課税条例の制定行為は処分性を有しない。


※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。


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行政事件訴訟法第三条 市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた事例

1 本件は,被上告人がその設置する保育所を廃止する条例を制定したことにつ
いて,当該保育所で保育を受けていた児童又はその保護者である上告人らが,上記
条例の制定行為は上告人らが選択した保育所において保育を受ける権利を違法に侵
害するものであるなどと主張して,その取消し等を求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,第1審判決別表記載の四つの保育所(以下「本件各保育所」
という。)を設置し運営していた。
(2) 上告人らは,本件各保育所で保育を受けていた児童又はその保護者であ
り,それぞれその入所承諾時に,上記別表中の「保育実施期限」欄記載の各日を終
期とする保育の実施期間の指定を受けていた。なお,横浜市保育所保育実施条例施
行規則(昭和62年横浜市規則第15号)によれば,保育所入所申込書には保育の
実施を必要とする期間を記載し,保育所入所承諾書にも保育の実施期間を記載する
こととされている。
(3) 被上告人は,その設置する保育所のうち本件各保育所をいわゆる民営化の
対象とすることとし,平成15年12月18日の横浜市議会の議決を経て,横浜市
保育所条例の一部を改正する条例(平成15年横浜市条例第62号。以下「本件改
正条例」という。)を制定し,同月25日,これを公布した。本件改正条例は,被
上告人が設置する保育所の名称及び位置を定める横浜市保育所条例(昭和26年横
浜市条例第7号)の別表から本件各保育所に係る部分を削除するものであり,平成
16年4月1日から施行され,これにより本件各保育所は廃止された。
3 原審は,要旨次のとおり判断し,本件改正条例の制定行為は抗告訴訟の対象
となる行政処分に当たらないとして,本件訴えのうち上記制定行為の取消しを求め
る部分を却下すべきものとした。
保育所などの公の施設の設置及びその管理に関する事項を定める条例は,公の施
設を利用する特定の個人の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの内容
を定めるものではなく,一般的規範の性質を有するものであり,このことは,公の
施設を廃止することを内容とする条例についても同様である。また,本件改正条例
の制定をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することができる
ような事情も見当たらない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
市町村は,保護者の労働又は疾病等の事由により,児童の保育に欠けるところが
ある場合において,その児童の保護者から入所を希望する保育所等を記載した申込
書を提出しての申込みがあったときは,希望児童のすべてが入所すると適切な保育
の実施が困難になるなどのやむを得ない事由がある場合に入所児童を選考すること
ができること等を除けば,その児童を当該保育所において保育しなければならない
とされている(児童福祉法24条1項〜3項)。平成9年法律第74号による児童
福祉法の改正がこうした仕組みを採用したのは,女性の社会進出や就労形態の多様
化に伴って,乳児保育や保育時間の延長を始めとする多様なサービスの提供が必要
となった状況を踏まえ,その保育所の受入れ能力がある限り,希望どおりの入所を
図らなければならないこととして,保護者の選択を制度上保障したものと解され
る。そして,前記のとおり,被上告人においては,保育所への入所承諾の際に,保
育の実施期間が指定されることになっている。このように,被上告人における保育
所の利用関係は,保護者の選択に基づき,保育所及び保育の実施期間を定めて設定
されるものであり,保育の実施の解除がされない限り(同法33条の4参照),保
育の実施期間が満了するまで継続するものである。そうすると,特定の保育所で現
に保育を受けている児童及びその保護者は,保育の実施期間が満了するまでの間は
当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有するものというこ
とができる。
ところで,公の施設である保育所を廃止するのは,市町村長の担任事務であるが
(地方自治法149条7号),これについては条例をもって定めることが必要とさ
れている(同法244条の2)。条例の制定は,普通地方公共団体の議会が行う立
法作用に属するから,一般的には,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるもので
ないことはいうまでもないが,本件改正条例は,本件各保育所の廃止のみを内容と
するものであって,他に行政庁の処分を待つことなく,その施行により各保育所廃
止の効果を発生させ,当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られ
た特定の者らに対して,直接,当該保育所において保育を受けることを期待し得る
上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,その制定行為は,行政庁
の処分と実質的に同視し得るものということができる。
また,市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が,当該
保育所を廃止する条例の効力を争って,当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事
訴訟を提起し,勝訴判決や保全命令を得たとしても,これらは訴訟の当事者である
当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから,
これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の
対応に困難を来すことにもなり,処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行
政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適
法性を争い得るとすることには合理性がある。
以上によれば,本件改正条例の制定行為は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当
たると解するのが相当である。
5 これと異なる見解の下に,本件訴えのうち本件改正条例の制定行為の取消し
を求める部分を不適法として却下すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適
用を誤った違法があるものといわざるを得ない。しかしながら,現時点において
は,上告人らに係る保育の実施期間がすべて満了していることが明らかであるか
ら,本件改正条例の制定行為の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべ
きである。そうすると,本件訴えのうち上記制定行為の取消しを求める部分を不適
法として却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができ
る。論旨は,結局,採用することができない。
(最判平成21年11月26日 民集 第63巻9号2124頁)

概略

 市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為は,当該保育所の利用関係が保護者の選択に基づき保育所及び保育の実施期間を定めて設定されるものであり,現に保育を受けている児童及びその保護者は当該保育所において保育の実施期間が満了するまでの間保育を受けることを期待し得る法的地位を有すること,同条例が,他に行政庁の処分を待つことなくその施行により当該保育所廃止の効果を発生させ,入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して,直接,上記法的地位を奪う結果を生じさせるものであることなど判示の事情の下では,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
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