2019年02月21日

行政事件訴訟法 第三条 意見書不採択決定処分取消

 所論は、違憲をもいうが、その実質は単なる法令違反をいうにすぎず、要するに、
土地区画整理法二〇条三項所定の利害関係者の意見書に係る意見を採択すべきでな
い旨の都道府県知事又は指定都市の長(同法一三六条の二第一項)の通知は、行政
事件訴訟法(以下「行訴法」という。)三条三項にいう「行政庁の裁決」又は同条
二項にいう「行政庁の処分」にあたり取消訴訟によつて争いうるものと解すべきで
あるのに、これを否定した原判決は、行訴法三条二項及び三項の解釈適用を誤つた
ものである、というに帰する。
 土地区画整理法二〇条二項に規定する利害関係者の意見書の提出は、土地区画整
理組合を設立しようとする者が定めた事業計画について利害関係者に書面で意見を
申し出る機会を与え知事(又は指定都市の長)の監督権の発動を促す途を開いたも
のであつて、行訴法三条三項にいう「審査請求、異議申立てその他の不服申立て」
にあたらないから、右意見書に係る意見を採択すべきでない旨の都道府県知事又は
指定都市の長の通知が同項にいう「裁決」にあたらないことは明らかである。また、
右通知は、利害関係者の法的地位になんら影響を及ぼすものではないから、同条二
項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」にもあたらないという
べきである。したがつて、右通知を取消訴訟によつて争うことは許されないという
べきであり、これと同旨の原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
(最判昭和52年12月23日 集民 第122号779頁)

概略

 土地区画整理法二〇条三項所定の利害関係者の意見書に係る意見を採択すべきでない旨の都道府県知事の通知は、取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」にあたらない。


土地区画整理法
(事業計画の縦覧及び意見書の処理)
第二十条 都道府県知事は、第十四条第一項又は第三項に規定する認可の申請があつた場合においては、政令で定めるところにより、施行地区となるべき区域(同項に規定する認可の申請にあつては、施行地区)を管轄する市町村長に、当該事業計画を二週間公衆の縦覧に供させなければならない。ただし、当該申請に関し明らかに次条第一項各号(第十四条第三項に規定する認可の申請にあつては、次条第一項第三号を除く。)の一に該当する事実があり、認可すべきでないと認める場合又は同条第二項の規定により認可をしてはならないことが明らかであると認める場合においては、この限りでない。
2 当該土地区画整理事業に関係のある土地若しくはその土地に定着する物件又は当該土地区画整理事業に関係のある水面について権利を有する者(以下「利害関係者」という。)は、前項の規定により縦覧に供された事業計画について意見がある場合においては、縦覧期間満了の日の翌日から起算して二週間を経過する日までに、都道府県知事に意見書を提出することができる。ただし、都市計画において定められた事項については、この限りでない。
3 都道府県知事は、前項の規定により意見書の提出があつた場合においては、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは、第十四条第一項又は第三項に規定する認可を申請した者に対し事業計画に必要な修正を加えるべきことを命じ、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときは、その旨を意見書を提出した者に通知しなければならない。
4 前項の規定による意見書の内容の審査については、行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)第二章第三節(第二十九条、第三十条、第三十二条第二項、第三十八条、第四十条、第四十一条第三項及び第四十二条を除く。)の規定を準用する。この場合において、同節中「審理員」とあるのは、「都道府県知事」と読み替えるものとする。
5 第十四条第一項又は第三項に規定する認可を申請した者が、第三項の規定により事業計画に修正を加え、その旨を都道府県知事に申告した場合においては、その修正に係る部分について、更に本条に規定する手続を行うべきものとする。


※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。


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行政事件訴訟法 第三条 優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件

 一 原告の本件取消処分及び本件却下処分の取消を求める各請求は、右各処分が行 政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」 (以下「行政処分」という。)に該当することを前提にして、処分の取消の訴えと して提起されたものである。 そこで、まず、本件各処分が行政処分に当たるか否かにつき検討する。
1 優生保護法(以下「法」という。)一四条一項によれば、都道府県の区域を単 位として設立された社団法人たる医師会(以下「医師会」という。)は、法所定の 人工妊娠中絶を行ないうる医師を指定する(以下この指定を単に「指定」とい う。)権限を、同条項に基づき、直接に授権されているものと解するのが相当であ る。
2 指定の法的性質について考察する。
(一) 法二条二項によれば、「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生 命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排 出することをいう。」のであるから、たとい医師が、婦女の嘱託を受け又はその承 諾を得てこれを行なつたとしても、その行為は刑法二一四条の業務上堕胎罪を構成 するのである。ところが、法一四条一項は、指定を受けた指定医師は、同項各号の 一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行なうこ とができる旨規定している。してみると、指定は、本来医師であつても行ないえな い人工妊娠中絶を、一定の場合に適法に行なうことができる指定医師たる資格ない し地位を医師に付与する性質のものであつて、業務上堕胎罪の違法性阻却事由の一 部を構成するものであると解される。どのような性質を持つ指定は、単なる私法人 が本来的にこれを享有しうる権限であるとは到底考えられず、もともと国の権能に 属するもので公権力の行使に当たる行為であると考えるのが相当である。
(二) さらに、右指定は如何なる性質の行政処分に属するものと解すべきである かについてもここで検討するに、右にみたとおり、指定により、医師は、刑法上堕 胎罪の規定によつて禁止されている人工妊娠中絶を適法に行ないうる指定医師の資 格ないし地位を取得するのであるところ、これを禁止の解除という面にのみ着目す るなら、あるいは講学上の許可に該当すると考えられなくもないかもしれないが、 そもそも人工妊娠中絶という行為は、単なる行政目的のために行政法規によつて禁 じられているというのではなく、人倫秩序の維持を目的とする刑法典により自然犯 たる堕胎罪として禁じられているものであつて、本来、何人も(医師を含む)これ を行なう自由を持たない性質の行為である。法は、このように本来人が自由に行な いえない堕胎の行為について、積極的な行政目的、すなわち、優生上の見地から不 良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護するとの目的(法一条 参照)の実現のため、特定の医師に対し、これを適法に行ない得る特別な法的地位 を特に付与するため、指定の制度を採用したものと理解される。そうすると、指定 は、講学上の許可には当たらず、むしろ特許に近い性質を有するものとみるべきで ある。すなわち、この点において、指定は、例えば医師免許(医師法二条)が、本 来、人が職業選択の自由という観点から自由に行ないうる筈の行為である医業につ いて、危険防止、公衆衛生の保持などの警察目的から行政法規(同法一七条)をも つて一般的に禁止したのを、特定の者に対して解除して自由を回復させる性質のも のであるが故に、講学上の許可に当たるものと解されるのとは、行政処分としての 性質を互いに異にするというべきである。
3 ところで、行政事件訴訟法三条二項にいう「行政庁」とは、国又は公共団体か ら公権力の行使の権限を与えられている機関をいい、そのような権限を法律によつて付与されている限り、国又は公共団体の機関に限らず、私法人であつても「行政 庁」たりうると解すべきである。医師会が、公権力の行使たる指定を行なう権限を 法によつて授権されていることは、前記説示のとおりであるから、医師会は、指定 に関する限りにおいて、行政庁とみるべきものである。
4 してみると、このような指定を取消した本件取消処分及び指定の申請を却下し た本件却下処分もまた、いずれも行政庁たる医師会が公権力の行使としてなした行 政処分と解されるのであり、したがつて、抗告訴訟の適法な対象となるものである と考えられる。

概略

県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定の取消処分及び同指定申請に対する却下処分は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか 

 県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定の取消処分及び同指定申請に対する却下処分は,いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
(仙台地方裁判所 昭和57年3月30日 昭和53(行ウ)5)



その他の論点

1 県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定を受けた医師が新生児を他に実子としてあっせんするため虚偽の出生証明書を作成したこと等の行為につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられこれが確定したことを理由として県医師会が同医師に対してした右指定の取消処分に,裁量権の逸脱又は濫用はないとした事例 

2 県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定を受けた医師が新生児を他に実子としてあっせんするため虚偽の出生証明書を作成したこと等の行為につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられこれが確定したことを理由として県医師会が同医師に対してした右指定の取消処分に先立って弁明の機会を与えていなくても,右取消処分に対する不服申立ての審査機関である不服審査委員会で事後的に弁明の機会が与えられており,また,右指定が単なる授益的な処分とは考えられないことからみて,右取消処分に関する手続が妥当性を欠くものとは認められないとした事例 

3 県医師会は,同会により優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定後において公益に合致しない事情が生じた場合には,法律による明文の根拠がなくても,右指定を撤回することができるとした事例 

4 県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定を受けた医師が新生児を他に実子としてあっせんするため虚偽の出生証明書を作成したこと等の行為につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられこれが確定したことを理由として県医師会が同医師に対してした右指定の取消処分後にした県医師会による優生保護法14条1項に規定する指定医師の指定の申請を県医師会が右取消処分と同じ理由により却下したことが適法とされた事例




※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。



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2019年02月20日

行政事件訴訟法 第三条 出生した子につき住民票の記載を求める親からの申出に対し特別区の区長がした上記記載をしない旨の応答

第1 事案の概要
1 本件は,上告人X (以下「上告人父」という。)が世田谷区長(以下「区
長」という。)に対し,上告人父と上告人X (以下「上告人母」といい,上告人
父と併せて「上告人父母」という。)との間の子である上告人X (以下「上告人
子」という。)につき住民票の記載を求める申出をしたところ,これをしない旨の
応答を受け,その後も上告人母と共に同様の申入れをしたものの住民票の記載がさ
れなかったことから,上告人らにおいて,被上告人に対し,上記応答及び住民票の
記載をしない不作為が違法であると主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠
償等を求めるとともに,上記応答が行政処分であることを前提にその取消しを求め
る事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人父母は,平成11年以降,東京都世田谷区内で事実上の夫婦として
共同生活をしている。上告人父母の間には,同17年3月▲日,上告人子が出生
し,上告人父は,これに先立つ同年2月24日,我孫子市長に上告人子に係る胎児
認知届を提出して受理された。
(2) 上告人父は,区長に対し,同年4月11日,自らを届出人として上告人子
に係る出生届(以下「本件出生届」という。)を提出したが,非嫡出子という用語
を差別用語と考えていたことから,届書中,嫡出子又は嫡出でない子(以下「非嫡
出子」という。)の別を記載する欄(戸籍法49条2項1号参照)を空欄のままと
した。このため,本件出生届には,上記の欄が空欄になっており,かつ,同法52
条2項所定の届出義務者である上告人母ではなく,上告人父が届出人として記載さ
れているという不備が認められた。区長は,上告人父に対し,これらの不備の補正
を求めたが,拒否され,前者の不備については,届書の記載が上記のままでも,区
長において届書のその余の記載事項から出生証明書の本人と届書の本人との同一性
が確認されれば,その認定事項(例えば,父母との続柄を「嫡出でない子・女」と
認める等)を記載した付せんを届書に貼付するという内部処理(以下「付せん処
理」という。)をして受理する方法を提案したものの,この提案も拒絶された。そ
こで,区長は,同日,本件出生届を受理しないこととした(以下,これを「本件不
受理処分」という。)。
(3) 上告人父は,区長に対し,同年5月19日,上告人子につき住民票の記載
を求める申出をしたが,区長は,本件出生届が受理されていないことを理由に,上
記記載をしない旨の応答(以下「本件応答」という。)をした。
(4) 上告人父母は,その後も区長に対し上告人子に係る住民票の記載を求める
申入れをしたが,区長はこれに応じていない。
(5) 上告人父は,本件不受理処分を不服として,区長に本件出生届の受理を命
ずることを求める家事審判の申立てをしたが,東京家庭裁判所は,同年12月2
日,本件不受理処分に違法はないとして,同申立てを却下する決定をした。上告人
父はこれを不服として抗告したが,東京高等裁判所は同18年1月30日,これを
棄却する決定をし,これに対する特別抗告も同年9月8日の最高裁判所の決定によ
り棄却された。上告人母は,その後も,現在に至るまで,上告人子に係る適法な出
生届を提出していない。
(6) 上告人父母は,現在,世田谷区内で上告人子を監護養育している。なお,
本件の第1審判決は,同19年5月31日,区長に上告人子に係る住民票の作成を
命ずる判決を言い渡したが,被上告人は,原審の口頭弁論終結時(同年9月12
日)までの間,本件出生届の提出後に上告人子の居住実態や通名(上告人子は出生
届が受理されていないので戸籍上の名はない。)に変更を生じたなどの具体的な主
張をしていない。
(7) なお,行政実務上,戸籍の記載と住民票の記載との連動を前提とした事務
処理システムが全国的に構築されており,被上告人においても同様のシステムが導
入されている。また,住民票は,行政実務上,選挙人名簿への登録のほか,就学,
転出証明,国民健康保険,年金,自動車運転免許証の取得,都営住宅への入居等に
係る事務処理の基礎とされているが,これらのうち,選挙人名簿への登録に関して
は,上告人子が事実審の口頭弁論終結時において2歳であり,住民票の記載がされ
ないことに伴う不利益が現実化しているものではない。その余の事務に関しても,
被上告人は,住民基本台帳に記録されていない住民に対し,手続的に煩さな点はあ
り得るとしても,多くの場合,それに記録されている住民に対するのと同様の行政
上のサービスを提供している。
第2 職権による検討
原審は,本件応答が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たり,その取消しを求め
る上告人子の訴えが適法な取消訴訟であることを前提として,同訴えに係る請求を
棄却した。
しかし,上告人子につき住民票の記載をすることを求める上告人父の申出は,住
民基本台帳法(以下「法」という。)の規定による届出があった場合に市町村(特
別区を含む。以下同じ。)の長にこれに対する応答義務が課されている(住民基本
台帳法施行令(以下「令」という。)11条参照)のとは異なり,申出に対する応
答義務が課されておらず,住民票の記載に係る職権の発動を促す法14条2項所定
の申出とみるほかないものである。したがって,本件応答は,法令に根拠のない事
実上の応答にすぎず,これにより上告人子又は上告人父の権利義務ないし法律上の
地位に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当
しないと解される(最高裁昭和43年(行ツ)第3号同47年11月16日第一小
法廷判決・民集26巻9号1573頁,最高裁平成2年(行ツ)第202号同3年
3月19日第三小法廷判決・裁判集民事162号211頁参照)。そうすると,本
件応答の取消しを求める上告人子の訴えは不適法として却下すべきである。
第3 上告人らの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)につ
いて
1 原審は,前記事実関係等の下において,次のとおり判示して,上告人らの損
害賠償請求を棄却すべきものと判断した。
法8条及び令12条2項によれば,市町村長は,戸籍に関する届書を受理したと
き等,同項1号所定の場合に,職権で出生した子に係る住民票の記載をすべきもの
とされており,法はそれ以外の場合に,出生した子に係る住民票の職権記載をする
ことを予定していないというべきである。仮に市町村長が無戸籍の子につき職権で
住民票の記載をすべき場合があるとしても,それは極めて例外的な場合に限られ,
せいぜい,出生届をすることによって届出義務者や子が重大な不利益を被る場合
で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を届出義務者に求めること
を社会通念上期待することができないような事情がある場合に限定されると解すべ
きである。
本件において上記のような事情があると認めることはできないから,本件応答及
び区長がその後も上告人子につき住民票の記載をしなかったことを違法ということ
はできない。
2(1) 法は,市町村において,住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その
他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡
素化を図り,併せて住民に関する記録の適正な管理を図り,もって住民の利便を増
進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資するため,住民基本台帳
の制度を定めている(法1条)。住民基本台帳は,個人を単位とする住民票を世帯
ごとに編成して作成する台帳であり(法6条),住民票には,住民の氏名,出生の
年月日,男女の別,世帯主との続柄,戸籍の表示等を記載するところ,本籍のない
者及び本籍の明らかでない者については,その旨を記載すべきものとされている
(法7条)。また,市町村長は,新たに市町村の区域内に住所を定めた者その他新
たにその市町村の住民基本台帳に記録されるべき者があるときは,その者につき住
民票の作成又は記載をしなければならず(法8条,令7条),住民基本台帳に脱漏
等があったときは,当該事実を確認して,職権で住民票の記載等をしなければなら
ないものとされている(法8条,令12条3項)。そして,市町村長は,常に,住
民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努めなければなら
ないものとされている(法3条)。
これらの規定によれば,法及び令は,当該市町村に住所を有する者すべてについ
て住民票の記載をして,住民に関する事務処理の基礎とすることを制度の基本とし
ていることが明らかである。このことは,出生届が受理されず,戸籍の記載がされ
ていない子についても変わりはない。
(2) ところで,法及び令は,子が出生した場合,世帯主等に,転入届,世帯変
更届等の届出義務を課することなく(法22条1項括弧書参照),出生届の受理等
又はこれに関する関係市町村長からの通知に基づき,職権で住民票の記載をすべき
ものとしている(令12条2項1号,法9条2項)。そして,当該子につき出生届
が提出されなかった場合において,当該子に係る住民票の記載をするための手続と
して,出生届の届出義務者に対し届出の催告等をし,出生届の提出を待って,戸籍
の記載に基づき,職権で住民票の記載をする方法(法14条1項参照。以下「届出
の催告等による方法」という。)と,職権調査を行って当該子の身分関係等を把握
し,その結果に基づき,職権で住民票の記載をする方法(法34条参照。以下「職
権調査による方法」という。)の2種類の手続を設けている。
両手続の優先関係ないし補充関係に関しては,法及び令に明文の規定は置かれて
いない。しかし,戸籍法52条1項ないし3項所定の者は,出生の届出をすること
を義務付けられており(同法49条参照),その違反に対しては,届出の催告(同
法44条)及び過料の制裁(同法135条)が予定されている。そして,法が出生
した子に係る転入届等の届出義務を課さなかったのは,その義務を課すると,戸籍
法の定める上記の届出義務に加えて二重の届出義務を課することとなるほか,出生
届の提出を待って,戸籍の記載に基づき住民票の記載をする方が,戸籍の記載と住
民票の記載との不一致を防止し,住民票の記載の正確性を確保するために適切であ
ると判断されたことによるものと解される。また,法は,このような制度趣旨に基
づき,住民票の記載を戸籍の記載と合致させるため,関係市町村長間の通知の制度
(法9条2項)を設けている。なお,住民は,常に,住民としての地位の変更に関
する届出を正確に行うように努めなければならず,住民基本台帳の正確性を阻害す
るような行為をしてはならないものとされている(法3条3項)。このような法の
趣旨等にかんがみれば,法は,上記の両手続のうち,届出の催告等による方法を原
則的な方法として定めているものと解するのが相当である。
したがって,市町村長は,父又は母の戸籍に入る子について出生届が提出されな
い結果,住民票の記載もされていない場合,常に職権調査による方法で住民票の記
載をしなければならないものではなく,原則として,出生届の届出義務者にその提
出を促し,戸籍の記載に基づき住民票の記載をすれば足りるものというべきであ
る。
(3) もっとも,上記(1)のとおり,住民基本台帳は,出生した子が当該市町村に
住所を有する限り,戸籍の記載がされたか否かにかかわらず,最終的には,それら
の子につきすべて住民票の記載をすることを制度の基本としており,その記載を基
礎として,住民に関する事務処理が行われるのであるから,その記載がされなけれ
ば,当該子が行政上のサービスを受ける上で少なからぬ支障が生ずることが予想さ
れる。したがって,戸籍に記載のない子については,届出の催告等による方法によ
り住民票の記載をするのが原則的な手続であるとはいえ,その方法によって住民票
の記載をすることが社会通念に照らし著しく困難であり又は相当性を欠くなどの特
段の事情がある場合にまで,出生届が提出されていないことを理由に住民票の記載
をしないことが許されるものではなく,このような場合には,市町村長に職権調査
による方法で当該子につき住民票の記載をすべきことが義務付けられることがある
ものと解される。
(4) 本件においては,前記事実関係等のとおり,@ 上告人父は上告人子に係
る胎児認知届を提出して受理された,A 本件出生届は,嫡出子又は非嫡出子の別
を記載する欄及び届出人欄の記載を除けば,添付された出生証明書の記載も含め
て,不備のない届出であった,B 上告人子は,現在も世田谷区内の上告人父母の
住所で監護養育されており,その居住実態や通名に変更を生じたことはうかがわれ
ないなどというのであるから,住民票に記載すべき上告人子の身分関係等は明らか
であったというべきである。したがって,仮に区長において,上告人子につき上告
人母の世帯に属する者として住民票の記載をしたとしても,法の趣旨に反する措置
ということはできず,むしろ,このような措置を執ることで,上告人子に関する画
一的な処理が可能となり,被上告人における行政上の事務処理の便宜に資する面も
あるということができる。
それにもかかわらず区長が上記のような措置を講じていないのは,本件におい
て,上告人母が上告人子に係る適式な出生届を提出することに格別の支障がないに
もかかわらず,その提出を怠っていることによるものと考えられる。上告人母が上
記提出をしていないのは,前記第1の2(2)の事情等からすれば,その信条に基づ
くものであることがうかがわれるところ,区長は,このような信条にも配慮して,
付せん処理の方法による本件出生届の受理を提案したのであり,しかも,区長の本
件不受理処分に違法がないことについては司法の最終的判断が確定しているのであ
る。したがって,上告人母が出生届の提出をけ怠していることにやむを得ない合理
的な理由があるということはできず,前記の特段の事情があるということもできな
いから,区長が上記のような措置を講じていないことが,この観点から法の趣旨に
反するものということはできない。
(5) また,住民票の記載がされないことによって上告人子に看過し難い不利益
が生ずる可能性があるような場合は,たとい上告人母の上記け怠にやむを得ない合
理的な理由がないときであっても,前記の特段の事情があるものとして,区長が職
権調査による方法で上告人子につき住民票の記載をしなければならないこともあり
得ると解されるところではある。しかし,前記事実関係等によれば,上告人子にお
いては,住民票の記載を欠くことに伴う最大の不利益ともいうべき,選挙人名簿へ
の被登録資格を欠くことになるという点に関しては,その年齢からして,いまだそ
の不利益が現実化しているものではなく,また,被上告人は,住民基本台帳に記録
されていない住民に対しても,手続的に煩さな点があり得るとはいえ,多くの場
合,それに記録されている住民に対するのと同様の行政上のサービスを提供してい
るというのである。なお,本件記録によっても,上記のような措置が講じられない
ことにより上告人子に看過し難い不利益が現に生じているような事情はうかがわれ
ない。
したがって,区長が上記のような措置を講じていないことが,この観点から法の
趣旨に反するものということもできない。
(6) 他に,区長において上記のような措置を講じていないことを違法とすべき
特段の事情は見当たらない。
そうすると,区長において,上告人子につき上告人母の世帯に属する者として住
民票の記載をしていないことは,法8条,令12条3項等の規定に違反するもので
はないというべきであり,もとより国家賠償法上も違法の評価を受けるものではな
いと解するのが相当である。
したがって,上告人らの損害賠償請求には理由がない。
3 よって,上告人らの損害賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断は是認
することができる。論旨は採用することができない。
(最判平成21年4月17日 民集 第63巻4号638頁)

概略

 1 出生した子につき住民票の記載を求める親からの申出に対し特別区の区長がした上記記載をしない旨の応答は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。
2 母がその戸籍に入る子につき適法な出生届を提出していない場合において,特別区の区長が住民である当該子につき上記母の世帯に属する者として住民票の記載をしていないことは,(1)上記母が出生届の提出をけ怠していることにやむを得ない合理的な理由があるとはいえないこと,(2)住民票の記載がされないことにより当該子に看過し難い不利益が生じているとはうかがわれないことなど判示の事情の下では,住民基本台帳法上違法ということはできず,国家賠償法上も違法ではない。



※参考条文

行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3 この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求その他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4 この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

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