2019年06月18日

建築基準法第59条の2第1項による許可処分等取消請求事件

1 本件は,被上告人が,住宅・都市整備公団(以下「公団」という。)に
対し平成4年11月13日付けでした建築基準法(平成4年法律第82号による改
正前のもの。以下同じ。)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可(以下
「本件総合設計許可」という。)及び同法施行令(平成5年政令第170号による
改正前のもの。以下同じ。)131条の2第2項に基づく認定処分(以下「本件認
定処分」という。)について,上告人らが,被上告人に対し,これらが違法である
として,その取消しを請求する事案である。
 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 公団は,埼玉県桶川市ab丁目所在の3785.32uの土地(以下「
本件土地」という。)に地上25階建て,高さ75.5mの共同住宅(以下「本件
建築物」という。)を建築する計画を立てた。本件土地は,都市計画法(平成4年
法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)8条1項1号所定の商業地域内に
あり,建築基準法52条1項所定の容積率が400%の地域内にある。本件建築物
は,容積率が508.55%であり,本件土地に係る容積率の制限を超えるもので
あった。そこで,公団は,本件建築物について,上記の割合まで容積率制限を緩和
する本件総合設計許可を受けた。また,公団は,本件建築物について本件認定処分
も受けたので,本件土地の東北側に接する都市計画道路a中央通り線(以下「本件
都市計画道路」という。)が本件建築物の前面道路とみなされて同法56条1項2
号ロ所定のいわゆる隣地斜線制限が緩和されることとなった。公団は,上記各処分
により,本件建築物を建築することが可能となった。
 (2) 上告人A1,同A2,同A3及び同A4の各居宅は,本件建築物から北
西に150m以上離れており,都市計画法8条1項1号所定の第2種住居専用地域
内にある。同A5の居宅は,本件建築物から北東に50m余離れており,同号所定
の住居地域内にある。その余の上告人らの居宅は,本件建築物から同A1らの居宅
よりも更に遠く離れている。
 本件建築物は,冬至日において,上告人A1の居宅のベランダの中間点において
午前7時30分ころから午前8時26分まで日影を生じさせ,同A2及び同A3の
居宅のベランダの中間点において午前7時30分ころから午前8時27分まで日影
を生じさせ,同A4の居宅の南側1階ベランダの中間点において午前8時22分か
ら午前9時32分まで日影を生じさせ,同A5の居宅の南西側の中間点(地盤面)
において午後2時5分から午後4時まで日影を生じさせるが,その余の上告人らの
各住居の敷地上には,日影を生じさせない。
 3 原審は,上記事実関係の下において,@ 上告人らの被上告人に対する本件
総合設計許可の取消しを求める訴えをすべて不適法とし,A 本件認定処分の取消
しを求める訴えについては,上告人A1,同A2,同A3,同A4及び同A5(以
下「上告人A1外4名」という。)の訴えを適法としたが,その余の上告人らの訴
えを不適法とした。原審の判断の概要は,次のとおりである。
 (1) 総合設計許可を定める建築基準法59条の2第1項は,一般的公益の保
護を目的としており,住民の個別的利益の保護を目的とする趣旨ではない。また,
本件総合設計許可において緩和されることとなった容積率の制限を定める同法52
条は,適当な都市空間を確保し市街地の過密化を避け,道路等の都市施設の供給・
処理能力と市街地の高度利用の要請との均衡を図ること等を目的とするものであっ
て,近隣居住者の日照,採光,通風等の利益を個別的利益として保護する趣旨では
ない。したがって,上告人らは,本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を有
しない。
 (2) 隣地斜線制限を定める建築基準法56条1項2号は,近隣地の日照,採
光,通風を確保することを目的とし,近隣居住者の上記の利益を個別的利益として
保護する趣旨である。同法施行令131条の2第2項により特定行政庁が行う認定
処分は,同令135条の3第1項3号とあいまって同法56条1項2号の制限を緩
和するものであるから,その認定処分により日照等の享受を阻害される近隣住民は
,当該認定処分の取消しを求める原告適格を有する。
 前記事実関係によれば,上告人A1外4名は,本件建築物により日照の阻害を受
ける者として,本件認定処分の取消しを求める原告適格を有する。しかし,その余
の上告人らは,その居宅につき日照等の阻害を受けている旨の主張をしておらず,
同上告人らの主張する公園利用権の侵害,文化的環境の保護,公園等の利用に支障
を生じさせるビル風の発生,交通渋滞,眺望阻害,プライバシーの侵害は,本件認
定処分の取消しを求める法律上の利益に当たらないから,同上告人らは,その取消
しを求める原告適格を有しない。
 4 原審の上記判断のうち,上告人A1外4名以外の上告人らの訴えをいずれも
不適法とした判断は,結論において是認することができるが,上告人A1外4名に
つき本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を否定してその訴えを不適法とし
た判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処
分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害
されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数
者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属す
る個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される
場合には,かかる利益も上記の法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこ
れを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟にお
ける原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,不特定多
数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものと
する趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を
通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最
高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6
号571頁,最高裁平成6年(行ツ)第189号同9年1月28日第三小法廷判決・
民集51巻1号250頁参照)。
 (2) 上記の見地に立って,上告人らの本件総合設計許可の取消しを求める原
告適格について検討する。
 建築基準法は,建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定めて,国民の生命
,健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものである(1条)ところ,同
法59条の2第1項は,同法52条の容積率制限,同法55条又は56条の高さ制
限の特例として,一定規模以上の広さの敷地を有し,かつ,敷地内に一定規模以上
の空地を有する場合に限り,安全,防火,衛生等の観点から支障がないと認められ
ることなどの要件の下に,これらの制限を緩和することを認めている。容積率制限
や高さ制限の規定の趣旨・目的等をも考慮すれば,同法59条の2第1項の規定は
,これらの制限の緩和を認めて大規模な建築物を建築することを可能にする一方で
,必要な空間を確保することにより,当該建築物及びその周辺の建築物における日
照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるように
するとともに,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなど万一の事態が
生じた場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことのないよう
適切な設計がされていることなどを審査し,安全,防火,衛生等の観点から支障が
ないと認められる場合にのみ許可をすることとしているものと解される(最高裁平
成9年(行ツ)第7号同14年1月22日第三小法廷判決・民集56巻1号登載予
定参照)。以上のような同項の趣旨・目的,同項が総合設計許可を通して保護しよ
うとしている利益の内容・性質等にかんがみれば,同項は,上記許可に係る建築物
の建築が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物により
日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益とし
ても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,【要旨
1】総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者
は,総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取
消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,上告人A1外4名は,いずれもその居住する建築物が,
本件建築物により日照を阻害されるから,本件総合設計許可の取消しを求める原告
適格を有するものというべきである。そうすると,同上告人らにつき本件総合設計
許可の取消しを求める原告適格を否定し,その取消しを求める訴えを却下すべきも
のとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は,この趣旨をいう限度で理由があり,原判決中同上告人らの本件総合設計許
可取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき訴えを却下した
第1審判決を取り消した上,これをさいたま地方裁判所に差し戻すべきである。
 これに対し,上告人A1外4名以外の上告人らは,その居住する建築物が本件建
築物により日照等を阻害される旨の主張をしておらず,他に本件総合設計許可の取
消しを求める法律上の利益があるというべき根拠は見いだせないから,原判決中同
上告人らにつき本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を否定し,その取消し
を求める訴えを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認することが
できる。この点に関する論旨は,採用することができない。
 (3) さらに,本件都市計画道路が完成して供用が開始されたことにより本件
認定処分の取消しを求める訴えの利益が失われたことは,後記のとおりであるから
,上告人A1外4名以外の上告人らの本件認定処分の取消しを求める訴えは不適法
である。そうである以上,その訴えを却下すべきものとした原審の判断を論難する
論旨は,原判決の結論に影響しない事項の違法をいうものということになるから,
この点につき判断するまでもなく,採用することができない。
 第2 職権による検討
 建築基準法施行令131条の2第2項に基づく認定処分は,都市計画道路が完成
して供用が開始されるまでの間,所定の要件を満たす建築物につき当該計画道路を
その建築物の前面道路とみなし,その計画道路内の隣地境界線がないものとして(
同法施行令135条の3第1項3号),当該建築物につき隣地斜線制限の適用を解
除するものであるから,【要旨2】当該都市計画道路が完成して供用が開始されれ
ば,上記認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われるものと解するのが相当で
ある。

記録によれば,本件都市計画道路は完成して供用が開始されたことが認められるか
ら,上告人らにおいて本件認定処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものと
いうべきである。そうすると,原判決中,上告人A1外4名の本件認定処分の取消
請求を棄却すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の
違反があるから,原判決中同部分は,その余の点について判断するまでもなく破棄
を免れない。そして,同請求に係る訴えを却下した第1審判決は,結論において正
当であるから,同部分に対する同上告人らの控訴を棄却すべきである。



(最判平成14年3月28日 民集 第56巻3号613頁)

概略

 1 建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有する。
2 建築基準法施行令(平成5年政令第170号による改正前のもの)131条の2第2項に基づく認定処分がされた建築物につき同項によりその前面道路とみなされる都市計画道路が完成して供用が開始された場合には,上記処分の取消しを求める訴えの利益は失われる。





※建築基準法
(敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例)
第五十九条の二 その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建蔽率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、第五十二条第一項から第九項まで、第五十五条第一項、第五十六条又は第五十七条の二第六項の規定による限度を超えるものとすることができる。
2 第四十四条第二項の規定は、前項の規定による許可をする場合に準用する。


※建築基準法施行令
(前面道路とみなす道路等)
第百三十一条の二 土地区画整理事業を施行した地区その他これに準ずる街区の整つた地区内の街区で特定行政庁が指定するものについては、その街区の接する道路を前面道路とみなす。
2 建築物の敷地が都市計画において定められた計画道路(法第四十二条第一項第四号に該当するものを除くものとし、以下この項において「計画道路」という。)若しくは法第六十八条の七第一項の規定により指定された予定道路(以下この項において「予定道路」という。)に接する場合又は当該敷地内に計画道路若しくは予定道路がある場合において、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認める建築物については、当該計画道路又は予定道路を前面道路とみなす。
3 前面道路の境界線若しくはその反対側の境界線からそれぞれ後退して壁面線の指定がある場合又は前面道路の境界線若しくはその反対側の境界線からそれぞれ後退して法第六十八条の二第一項の規定に基づく条例で定める壁面の位置の制限(道路に面する建築物の壁又はこれに代わる柱の位置及び道路に面する高さ二メートルを超える門又は塀の位置を制限するものに限る。以下この項において「壁面の位置の制限」という。)がある場合において、当該壁面線又は当該壁面の位置の制限として定められた限度の線を越えない建築物(第百三十五条の十九各号に掲げる建築物の部分を除く。)で特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるものについては、当該前面道路の境界線又はその反対側の境界線は、それぞれ当該壁面線又は当該壁面の位置の制限として定められた限度の線にあるものとみなす。

(隣地との関係についての建築物の各部分の高さの制限の緩和)
第百三十五条の三 法第五十六条第六項の規定による同条第一項及び第五項の規定の適用の緩和に関する措置で同条第一項第二号に係るものは、次に定めるところによる。
一 建築物の敷地が公園(都市公園法施行令(昭和三十一年政令第二百九十号)第二条第一項第一号に規定する都市公園を除く。)、広場、水面その他これらに類するものに接する場合においては、その公園、広場、水面その他これらに類するものに接する隣地境界線は、その公園、広場、水面その他これらに類するものの幅の二分の一だけ外側にあるものとみなす。
二 建築物の敷地の地盤面が隣地の地盤面(隣地に建築物がない場合においては、当該隣地の平均地表面をいう。次項において同じ。)より一メートル以上低い場合においては、その建築物の敷地の地盤面は、当該高低差から一メートルを減じたものの二分の一だけ高い位置にあるものとみなす。
三 第百三十一条の二第二項の規定により計画道路又は予定道路を前面道路とみなす場合においては、その計画道路又は予定道路内の隣地境界線は、ないものとみなす。
2 特定行政庁は、前項第二号の場合において、地形の特殊性により同号の規定をそのまま適用することが著しく不適当であると認めるときは、規則で、建築物の敷地の地盤面の位置を当該建築物の敷地の地盤面の位置と隣地の地盤面の位置との間において適当と認める高さに定めることができる。


行政事件訴訟法
(原告適格)
第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。


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