2019年02月03日

民法第一条 抵当権の無効を主張することが信義則に照らして許されないとされた事例

 原判決が確定した事実関係によれば、上告人は、その子らとともに本件家屋および田を共同相続し、その持分しか取得しなかつたにもかかわらず、本件家屋については自己名義の保存登記を、本件田については自己の単独相続による所有権移転登記を、各経由し、これを前提として、被上告人との間において本件家屋および田について抵当権設定契約を締結して、その旨の登記を各経由し、その後、右子らと遺産分割の協議をし、本件家屋は上告人の単独所有、本件田は子らの共有とする旨の協議が成立した、というのである。
右確定した事実関係のもとにおいては、本件家屋は、右遺産の分割の結果、相続開始の時にさかのぼつて、上告人の単独所有となつたものであるから、本件家屋について上告人と被上告人との間に締結された右抵当権設定契約は、その締結時にさかのぼつて有効となり、また、遺産の分割の遡及効は、第三者の既得の権利を害し得ないから、本件田についての右遺産の分割によつても、被上告人は、上告人がその分割前に共同相続によつて取得した本件田の持分についての抵当権を失うことはないし、しかも、前記のように、原判決の確定したところによれば、上告人は、本件田について、共同相続によつて持分しか取得しなかつたにもかかわらず、自己が単独相続したとして、その旨の所有権移転登記を経由し、これを前提として、被上告人との間において右抵当権設定契約を締結し、その旨の登記を経由したというのであるから、上告人が、被上告人に対し、その分割前に取得していた本件田の持分をこえる持分についての右抵当権が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照して許されないというべきである。
されば、原判決の理由は、右説示の理由とは異なるが、原判決が前記事実関係のもとにおいて上告人の本件家屋および田についての抵当権設定登記の抹消登記手続請求を認容しなかつたのは、結局、正当であることに帰するから、論旨は採用できない。(最判昭和42年4月7日 民集 第21巻3号551頁)

簡略化すると次の通り。
甲が、不動産について、共同相続によつて持分しか取得しなかつたにもかかわらず、自己が単独相続をしたとして、その旨の所有権移転登記を経由したうえ乙と右不動産について抵当権設定契約を締結し、その旨の登記を経由したときは、甲は、乙に対し、自己が取得した持分をこえる持分についての抵当権が無効であると主張して、その抹消(更正)登記手続を請求することは、信義則に照らして許されない。

※関連条文
民法
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
posted by 判例ラノベ化プロジェクト at 21:24| 判例原文集 民法